激ダサDANCEで凍らせて

ハロプロとテニミュとその他雑記。

『黒執事』1~30巻を読んだ感想

期間限定で1~30巻まで無料公開していた『黒執事』を読みました。

面白すぎて2日間で電子版を読み切ったので肩こりと頭痛が酷い。

 

黒執事』は中高生の時に緑の魔女編の途中くらいまで友人に借りて読んだことはあったのもののストーリーは割と忘れていたので、既に読んでいたはずなのに「え!?こいつが犯人!?」って驚きながら読んだ。得した気分。

 

※以下、ネタバレ配慮してません

 

 

昔読んだ『黒執事』は絵が綺麗なファンタジー漫画だったなーというぼんやりした印象を持って読み始めたのだが、この作品はミステリー漫画として予想外に面白かった。

19世紀の西洋を舞台に悪魔や死神が活躍する物語なので、主人公のシエルが追う謎も当然ファンタジーとしての謎だと読者は思い込むのだが、実は魔術だと思っていたものが毒ガスだったり、占いだと思っていたものが血液型検査だったり、ファンタジー世界に突然科学が入り込んでくるので毎度予想を裏切られた。

ただのファンタジーお耽美漫画だと思って舐めてかかると新しい章に突入するたびにこの漫画の世界観ってここまで広がっちゃうんだと驚かされる。

 

どの章も面白かったのだが、一番読み込んだのは寄宿学校編。

なぜなら今年の春に予定されている寄宿学校編の舞台化にはテニミュ3rd立海のキャストさんが3人も出演することになっており、3rd立海のファンである私は原作をしっかり予習して観に行こうと意気込んでいたからである。

 

結果、寄宿学校編のぶっとび具合とグリーンヒルのキャラクターが最高で舞台への期待が1億倍に膨らんだ。

テニミュで真田弦一郎役を演じた田鶴さんは「ミュージカル『黒執事』〜寄宿学校の秘密〜」で監督生の一人であるグリーンヒル役を演じるのだが、改めて読むとグリーンヒルがすげえ真田だった。

グリーンヒル、腑抜けた人間を見ると「たるんどる!」って叫ぶし寮生に「イエッサー!!」って叫ばせるし、極め付けに風林火陰山雷の雷のフォームで人間を殺します(真田はそんなことしない)。

そして寄宿学校編で描かれるクリケットの必殺技の描写はすごくテニヌっぽい。厨二病じみた必殺技の名前(「加速する紫煙」とか「闇夜の梟」とか)もそうなんだけど、周りのギャラリーの「なんだあれ…」みたいな反応で必殺技の発動を盛り上げたりするのもテニヌみを感じる。

他の作品と混同して舞台を観に行くのは失礼かもしれないが、グリーンヒルに真田の幻影を、トンデモクリケットにテニヌの幻影を感じてしまったので、早くシエルに翻弄されながら大真面目にクリケットをする田鶴さんを観たくてたまらなくなってしまった。

ちなみにグリーンヒルは後輩を殺したのがバレて寄宿学校を追い出された後に人気アイドルになるのだが(この説明だけでトンチキがすごい)、そのアイドル達のライブシーンはキャラの吹き出しに歌詞の一部を入れて歌ってるっぽく描くのではなく絵の上に直接歌詞全文が書かれている。本当に全文そのままなので「※繰り返し」まで書かれているのだが、これを見た瞬間テニプリ最終巻の「JASRAC申請中」と共通するセンスを感じてツボにハマってしまった。私はこういう笑いに弱い。

 

こんな感じで『黒執事』はかなり作者がやりたい放題している漫画なのだが、すごいのはギャグもシリアスシーンも齟齬を起こさないよう物語に組み入れているところ。

物語の本筋となっているのはシエルの復讐譚であり、ジャンル分けとしてはシリアスなダークファンタジーなのだが、随所に作者の欲望丸出しのシーンが挟まっている。シエルがやたら女装をしたりゲロ吐いたりセバスチャンに虐められるのはたぶん作者の趣味だし、監督生達が19世紀イギリスでアイドル活動をしたり登場人物達がイースターやハロウィンにかこつけて仮装をするのもこれ作者がどうしても描きたかったんだろうなというのが伝わってくる。

でもそういう要素にも本筋のダークファンタジーを進行させる上での必然性がしっかり与えられていて、綿密なストーリー構成の元に成り立った商業誌でありながら作者の描きたいキャラ萌えエッセンスを詰め込んだ同人誌的楽しさもあるのが『黒執事』の大きな魅力だなと思ったりもした。

 

黒執事』の魅力は、時間をかけてキャラの魅力を掘り下げるのが物凄く上手いという点にもある。

特に感動したのがシエルの許嫁であるエリザベスの描写で、最初は子供じみた理由でシエルの大切な指輪を壊したりシエルの邪魔をしたりとなんだこのクソガキという気持ちで見てしまっていたのだが、豪華客船編では彼女の芯の強さを見せつけられ、青の教団編では彼女の心の奥に抱えた仄暗い感情と純粋さを覗き見てしまい、今では完全に推しになった。

あんなに天真爛漫に見えるのに可愛くない自分や愛するシエルの正体を見抜けなかった自分に対して激しい自己嫌悪を抱き、それでもなお愛らしいお嬢様として振る舞おうとする健気なエリザベスにスキが止まらない。

 

エリザベス以外にもソーマやファントムハイヴ家の使用人など、初期はあまりの身勝手さや脳天気さにイライラさせられるキャラが多かったのだが(セバスチャンの有能さを描くために意図的に破茶滅茶なキャラが多く描かれているという事情もある)、物語が進むにつれて彼ら、彼女らの活躍や暗い過去が明かされていき、30巻を読み終えたあたりでもれなく全員大好きになる。

 

黒執事』の既刊30巻を読み終えて、ストーリー構成もキャラクターの魅力も文句なしに良かった。

ただ一つだけ惜しいのは、電子版であるが故に見開きで描かれた美麗な絵を堪能できなかったことである。

特に緑の魔女編のシエルがセバスチャンに魂を取られる直前で正気に戻るシーンはページを跨いでガラスの破片が飛び散る描写がすごく綺麗だったので見開きでしっかり見たかった。

元々電子書籍は目が疲れるし読み返したい箇所を感覚的に探せないので苦手だったのだが、見開きで絵を見れないというのは意外な盲点だった。

 

無料公開の罠にまんまと引っかかっているなと思いつつ、続き気になるし、絵もちゃんとみたいし、紙の本、買うか…