激ダサDANCEで凍らせて

ハロプロとテニミュとその他雑記。

ミュージカル黒執事〜寄宿学校の秘密〜

生執事、大阪のメルパルクホールとシアタードラマシティで観劇しました。

 

ゲネプロの動画とか東京で観劇した人の感想とか見て、原作以上にテニミュでは?と思ってたのですが、実際観てみると演出の豪華さや役者さんのダークな演技に魅了され、ゴシックファンタジーの世界にドボンと浸った3時間でした。

まず冒頭のセバスチャン登場シーンがすごく良かった。黒執事の原作は〇〇編ごとに割とストーリーの切れ目がはっきりしてるので、最初は寄宿学校に行くぞ〜みたいなシーンから始まるのかと思っていたのですが、シエルとセバスチャンが契約するシーンから始まったのでファンタジー世界への没入感が高まりました。

満月をバックにマントを翻しながら「私を呼ぶのは誰か」って歌う悪魔セバスチャン、歌がうまいしかっこいいし最高でした……

立石さんのセバスチャンはシエルを慈しんでいるような優しさがあり、過去のセバスチャンとは大分印象が違ったのですが、そこにかえって底知れない悪魔っぽさが宿っている気がして私はすごく好きです。

 

その後キャストが勢揃いして今作の主題歌《Perfect Black》を歌う構成はすごく盛り上がって、ミュージカル黒執事の力を見せつけられました。

全員歌上手くて綺麗だし、衣装と舞台セットも豪華で、オープニングを永遠にリピートしたいくらいでした。

(以下 配信を観ての追記 2022年3月2日)

《Perfect Black》の歌詞は劇場で聴いた時に裏社会で生きるセバスチャンとシエルの関係性の曲(コメディ色が強い今作の序盤で『黒執事』はあくまでダークファンタジーであることを強調する曲)と解釈していたのですが、結末を知ってから1番サビ直前の以下の歌詞

月欠ける夜に踊りましょう

嘘と微笑むマスカレイド

歪んだ世界を歌いましょう

哀れな犠牲を神は笑い飛ばして

に注目すると、この曲が物語の結末を暗示しており、セバスチャンとシエルよりもむしろP4(各寮の監督生であるプリーフェクトフォーの通称)と彼らが犯した罪について歌われていることに気づきました。

セバスチャンの満月を背にした登場シーンはとても印象的な演出ですが、2幕後半でP4が「だから俺達は1年前のあの日、デリックを殺した」という台詞と同時に舞台後方に映されていた三日月が新月に変わり、闇に包まれるシーンは満月が輝くセバスチャン登場シーンと対になっています。つまり「月欠ける夜に踊りましょう」とはP4が過ちを犯した夜、或いは過ちを告白した夜を指しており、「歪んだ世界」はセバスチャンとシエルが生きる英国裏社会のこととも、学校の伝統に固執するP4が生きる狭い学園内のこととも解釈できます。

"Perfect Black"=完全な闇とは新月の夜を示すものであり、この美しい旋律に今後の展開を示唆する歌詞を当てるのがミュージカルの作りとしてとても巧い構造だと思いました。

(追記おわり)

 

1幕はコミカルな要素が強くて、ソーマの登場シーンとかも賑やかで楽しかったです。Twitter上では過去作のファンに「悪い意味で2.5次元」と言われてたりもしたのでキャラクターの押し出しが強い舞台なのかなと思っていたのですが、アンサンブルの方がソーマの従者やシエルが観る悪夢の幻影みたいなのを演じているあたりは2.5次元っぽくないと思いました。

劇中ではセバスチャンが「ソーマの周りで踊ってる従者はソーマの脳内イメージ」という旨のメタい台詞を言うのですが、アンサンブルの方が特定の人物ではない概念的なものを演じているとグランドミュージカルっぽさが出る気がします。

1幕ラストの《4th of June》の曲中に好きな箇所があって、各寮が「ブルーハウスの頭脳にかけて」「レッドハウスの高貴さにかけて」みたいなパートを順に歌った後に(歌詞は曖昧です。雰囲気はこんな感じ)シエルが「我が悪しき名にかけて」って歌うところがすごく好きです。

クリケット大会が始まる前のシーンなので青春の熱気や爽やかさが出てくるシーンで、各寮のパートを聴くと観客側もすごく気持ちが盛り上がっていくんですけど、最後のシエルの一言でこの作品がダークファンタジーであることを思い出してハッとさせられます。

 

2幕は各寮が順にパフォーマンスしていく曲から始まるのですが、寮のカラーに合わせて曲調がどんどん変わっていくのが良かったです。特に紫寮の曲調は彼らの異質さが感じられ、特に配信ではなく劇場で聴くと重低音が響いてブチ上がりました。

散々テニミュテニミュ言われていた試合シーンは緑寮vs紫寮の試合が一番楽しかった。ここはテニミュっていうよりヒプステのオマージュでした。

チェスロックのダンスとラップがかっこよくて、原作で全然興味なかったチェスロックが推しになりました。福澤さんのリズムの取り方とか体幹しっかりしてます感のある動きがすごく好みです。

その後グリーンヒルが反撃するシーンはラップっていうよりただ声量で相手の鼓膜を破壊してるって感じで最高でした。田鶴さん毎回毎回信じられないくらい声がデカいのでリアルに客席が振動して面白いです。4DXの映画か?

 

未見の段階ではセバスチャン(立石さん)、グリーンヒル(田鶴さん)、アガレス副校長(高橋さん)を楽しみにしていて、最初の方はこの3人を目で追いかけながら観ていたのですが、ノーマークでドンズバに落ちてしまったのは紫寮の2人でした。

ミステリアスながらもキレのあるダンスがかっこいいのはもちろんなんですけど、テニミュでいうベンチワーク(クリケット観戦中)の2人のやり取りも可愛くて好きです。

チェスロックは一見怖い不良に見えるのですが、バイオレットの落ちた帽子を拾いに行ってあげたり、バイオレットに自分の絵を描いてもらって喜んでたり、二人の絆が色々なところから感じられて良かったです。

原作は人間の愚かさを描いた作品である以上疑似兄弟の絆が強調されることはないのですが、ミュージカル版だとかなり人同士の繋がりが強調されていたような気がします。

紫寮の2人以外でもグリーンヒルがファッグ(弟分)であるエドワードの努力を褒め称えるシーンなどが印象に残りました。

グリーンヒルは表情や言動の端々から他者を素直に尊敬できる純粋な人柄が伝わってきて、結末のことを考えるとすごくつらいです。青寮優勝後のパレードシーンで青寮の選手に花飾りのついた帽子を被せてあげる場面では穏やかな笑みを浮かべていて、田鶴さん、グリーンヒルの解釈が上手すぎる…と思いました。

田鶴さんがテニミュで演じた真田はいつも片方の口角を上げた不敵な笑い方をすることが多くて、これはご本人の癖なのかなと思っていたのですが、柔らかく笑うグリーンヒルの演技を見て田鶴さんの演じ分けなんだと気付きました。

試合開始前までのグリーンヒルは勝利に固執する厳格な人物、というかほとんど真田弦一郎では?というイメージでしたが試合後は英国紳士としての人物像がしっかり見えて、原作者もネルケのスタッフも真田へのオマージュを狙っているのにちゃんと真田ではない姿を演じられるのがプロだなと思いました。

グリーンヒルの真田っぽさに関しては前にもちょっと書きました

gekidasadance.hatenablog.com

 

強敵グリーンヒルを打ち破った主人公と仲間たちが晴れやかなパレードで健闘を称えられているシーンを見ると完全にテニミュ全国立海後編のバンザイバンザイサンキューバンザイの気分になってしまい、そろそろ各チーム楽しく歌って終わりかなと思うのですがそういえばこれ黒執事なので失踪事件の話に戻ります。怖い。

 

失踪事件の真相を語るため、P4の回想シーンが始まるのですが、P4それぞれの表情が全員違って、ここにきてP4の人間性に対する解像度がよりはっきりしました。

失踪したデリックの本性を知った時、そして学園の腐敗を知った時P4は様々な反応をするのですが、信頼していたファッグの本性を知ってしまったレドモンドは動揺して悲しみ、優等生のブルーアーは現実を受け入れられないかのように硬直し、不正を許さないグリーンヒルは副校長の態度を見た瞬間、自らの目を疑うように瞬きをするという個性が表れています。バイオレットは一番表情が読み取りづらいものの、後藤さんのバイオレットからは状況を瞬時に理解する聡さのようなものが見えて、彼のことがすごく好きになりました。

グリーンヒルが衝動的にデリックを殺害した後にデリックの脈を確かめるのは冷静な頭脳派のブルーアーではなく他人に関心のなさそうなバイオレットで、最初に凶器を手に取りグリーンヒルの罪を一緒に背負おうとするのは高貴さを重んじるレドモンドではなく情に流されなさそうなバイオレットであるということが意外でもあり、リアルでもあると感じました。

長年オタクをしていると青色の頭脳派や紫色のミステリアスキャラとは84261692回目くらいの出会いになっており、そういうキャラが出てきた瞬間にキャラの人物像が自動的に頭の中でできあがってしまう状態になります。

でも後藤さん演じるバイオレットはテンプレ的なミステリアスキャラを深掘りしたものになっていて、すごく良かったです。クリケット大会でのチェスロックとのやり取りで彼の温かみを感じていたので、余計そう思いました。

P4の感情の機微やファッグとの関係性がすごく人間らしいからこそ、(悪魔から見て)不合理で愚かな人間の姿が浮き彫りになり、セバスチャンやシエルの冷徹さも際立っているという構図は原作の漫画でも十分面白いのですが、演劇になるとより面白いです。

 

回想シーンが終わった後はセバスチャンとアガレスの戦いの迫力に魅了されました。アガレスが舞台奥からアクロバットで回転しながら手前に飛び出してくるシーンはかっこよすぎて気絶するかと思った。

アガレス役の高橋さんは新テニミュの鈴木惷役を見て注目していた役者さんなのですが、惷くんが幼い感じのキャラクターだったので高橋さんが演じる副校長は想像がつかなかったです。

ですが実際に観てみて、2.5次元ファンの方がよく言っている「原作と違うけどしっくりくる」ってこういうことかと思いました。

原作のアガレスは階段から落ちたり挙動がおかしい以外は普通の教育者っぽいおじさんという感じでしたが、舞台のアガレスは高橋さんのやわらかくて若々しいお顔立ちもあっていい意味で人間らしくなかったと思います。

儚い感じの容姿なのに人間離れした動きをしているのがいかにも蘇生された元人間っぽくて、原作と違う良さがありました。

 

アガレスや葬儀屋との戦闘も終わり、セバスチャンとシエルが屋敷に戻った後に学友との写真を燃やすラストシーンはウッ…となりました。

この舞台は基本的に冒頭の回想シーンと終盤の回想シーン以外はドタバタコメディで、観客はそのドタバタ具合をめちゃくちゃに楽しんでいたので、セバスチャンとシエルにとってこの舞台の4分の3くらいを占める出来事がなんの感傷ももたらさない出来事なんだと思うとつらいです。

そうは言ってもミュージカルだから最後は全員で歌とダンス披露して、ソーマとかマクミランの笑顔で締めてくれるんでしょーと期待していたのですが、普通に静かにバウがはじまってつらいです。いや、それが世界観的にベストな終わり方なのはわかってるんですけど。

生執事のバウ毎回かっこいいなと思ってて、千の魂~の時のキャストのお辞儀とダンスが混ざった演出が好きなのですが、今回も音楽にあわせてお辞儀した後全員で《Perfect Black》を歌って終わるのが絶妙に暗い余韻を感じられて良かったです。

そして座長の立石さんが挨拶している間ダルそうに立っているのにお辞儀するときはちゃんとポケットから手をだして姿勢よくお辞儀するチェスロックが"本物"すぎて、最後の最後まで彼の推せみメーターが上がりっぱなしでした。

 

全体を通して、キャストさんの演技、歌、ダンスのレベルも照明や舞台装置のクオリティも高くて、幸せな観劇ができました。

ゴシックな世界観を守りながらも音楽がキャッチ―で、1回聴いただけで帰り道に友達と劇中の曲を口ずさみながら帰れるくらい印象的なメロディーが多いのも良かったです。今作が「悪い意味で2.5次元」って言われてるのもわからなくもないですが、グランドミュージカルより音楽がわかりやすいのも2.5の良いところだと個人的には思っているので、口ずさめる曲は嬉しいです。

音楽を担当したYuさんはテニミュ4thシーズンの不動峰公演でも音楽を担当されるらしいので今から楽しみ。

 

テニミュは一旦シーズンがはじまったら絶対半年に1回公演があるってわかるのに生執事は次の公演がいつになるのかわからなくてつらい。

このキャストのままアイドルP4観たすぎです。どうぞよろしくお願いします。