激ダサDANCEで凍らせて

ハロプロとテニミュとその他雑記。

双眼鏡は推しのパンツを拡大する為の道具ではない

歴代のテニミュを通して私の一番の「推し」と言えるのは、1stシーズンの中河内雅貴さん演じる仁王雅治である。

好きなキャストさん、好きなキャラクターはたくさんいるけれど、〇〇さんが演じる△△がドンピシャで大好き、みたいな殿堂入り級の大好きは中河内さんの仁王以外にいない(他のキャラだと、ビジュアルはこの人が好きで振る舞いのハマり具合はこの人で歌に感動するのはこの人だけどみんな違ってみんな良いになりがち)。

 

詐欺師のような深い洞察力を感じさせるミステリアスな眼差し、仁王としての胡散臭さと王者としてのプライドを兼ね備えた立ち振る舞い、掴みどころのない喋り方、手塚の冷静な歌声も白石の艶めかしい歌声も自在に操ることのできる器用さは私の理想とする仁王雅治そのものだった。

そして何より、私は中河内さんのダンスが好きだった。中河内さんは15歳で家族の元を離れて長野のスクールに通っていたほど本気でダンスに向き合ってきた人だ。ジャズダンスやバレエの基礎をしっかり身につけていて、ダンスの技術はとても高い。

しかし私は中河内さんのダンスを見て、技術よりもむしろ仁王雅治としての表現力に惹かれた。中河内さん演じる仁王は二次元の姿そのままに常に猫背で重心が低い。真っ直ぐな姿勢が基本のジャズやバレエを踊ってきた中河内さんが仁王の役に合わせて怠そうな姿勢のまま踊るのは大変だったんじゃないだろうか。しかも中河内さんのダンスは仁王らしい怠さがあるにもかかわらず、キレとリズム感の小気味良さが半端ではない。ペテン師だぁ?やイリュージョンの曲中だけじゃなくて、ラリービートにもしっかり音ハメをしながら試合を続ける。中河内さんは気怠げな詐欺師とキレのあるダンスという両立不可能なものを両立させているのだ。重心を落としたままステップを踏み一気に地面を蹴って高く飛ぶ様子などはまるで仁王の気まぐれな内面を表しているようだった。

2.5次元ミュージカルに求められるダンス、つまりただ上手いだけのダンスではなくキャラクターの内面を表す手段としてのダンスとはこういうものなのだと、私は中河内さんの仁王を見て理解することができた。

 

半年ほど前にテニミュと出会い、10年以上前に収録された1st立海のDVDを狂ったように再生しまくる私が大好きな中河内雅治を生で見ることは残念ながら叶わないのだけど、仁王が見れないのはもうしゃーないので中河内さんのダンスを生で観たかった。

 

ということで、中河内さんが出演するミュージカル『ビリー・エリオット』を観てきた。

中河内さんが演じるのはバレエダンサーを目指す主人公・ビリーの兄であるトニー。トニーは1980年代のイギリスで炭鉱の労働環境改善を求め、ストライキに参加しながらもビリーの夢を応援する役どころだ。

 

ビリー・エリオット』は夢を追いかける子供が主人公ということもあって、わかりやすく楽しい舞台だった。序盤はキャッチーで軽快な音楽とダンスで勢いをつけて、主人公が夢を叶えて旅立つラストシーンになると感動的な音楽が流れてきて客席みんな泣く、みたいなわかりやすさ。

正直、私が好きなタイプの物語かといえばそうではない。私は夢を追いかける系のストーリーに嫉妬、絶望、挫折、犠牲みたいな負の感情を求めてしまう闇のオタクなので『ビリー・エリオット』を見ていても全く涙腺が緩まなかった。まあ、闇のオタクの嗜好は置いておいて、楽しい舞台なのは確かだった。

ビリー・エリオット』の一番の楽しさは音楽の臨場感にあると思う。キャストの歌声だけでなく生演奏のオーケストラも迫力に満ちている。音圧に殴られる高揚感を久しぶりに体験し、現場最高オタクになった。現場、最高。

台本に書かれた物語を脳が理解するという過程を超えて、視覚や聴覚からダイレクトに感情がドバババババっと入ってくる感覚はパソコン越しの配信と比べ物にならない。

特に一幕の最後のシーンは音圧がすごくて、ビリーが労働組合のイザコザに巻き込まれてオーディション行けなくなってウワー!ってなって終わるんですけどそのシーンがはちゃめちゃにうるさくてアドレナリンがアホほど出た。

 

ちなみに一幕には労働組合と警察の小競り合いと女の子達のバレエレッスンが舞台上で同時進行している混沌としたシーンも存在するのだがこれが聴覚的にも視覚的にもうるさくて、これを同時進行させちゃう発想が天才だなと思った。

一応若者の私にとって労働運動なんて写真でしか見たことのない過去の出来事だけど、サッチャー政権下のイギリスで起こったデモやストライキって私たちが想像し得ないほど生活の中に入り込んでいて、それこそバレエを習う女の子たちが毎日うるさいと感じるほどのことだったんだと思う。そういう臨場感が音楽とダンスで表現されていて、『ビリー・エリオット』の中でも特に好きなシーンだった。

 

バレエ教室の女の子たちは「バレエガールズ」というアンサンブルの子役が演じている。演技はしっかりしているものの、バレエの方ははっきり言って下手だ。バレエの基礎が身についた踊り方をしている子も混ざってはいたけど大半の子はバレエのルールから外れているし、そもそもビリーや女の子たちにバレエを教えるウィルキンソン先生が口にするバレエ用語と実際に子供たちが練習する動きは合致していない。「バレエガールズ」はわざとバレエ未経験者をオーディションで取っているように思われる。演出の意図として正確なバレエを舞台上で見せようとしているわけでは無さそうだった。

はじめはこれを子供っぽい賑やかさを表すための演出としか思っていなかったのだが、ビリーがバレエ学校に合格して地元を離れるシーンのウィルキンソン先生の言葉を聞いて腑に落ちるものがあった。

ウィルキンソン先生は旅立ちを前にしたビリーに向かって、「ここで習ったことは全部忘れなさい、バレエ学校に行けばここでのレッスンがいかにいい加減だったかわかる」みたいなことを言うのだ。

イギリスの炭坑夫の労働運動を描くこの物語は経済資本の格差に焦点が当てられているが、ウィルキンソン先生の言葉はイギリス社会の文化資本の格差も物語っていて、正統な文化と伝統から外れたところに置かれた労働者階級と王立のバレエ学校の隔絶を示している。

楽しいバレエしか知らずに生きてきたビリーがその隔絶を知らずに夢へと飛び込んでいく姿はとても眩しくてある意味では残酷だ(闇のオタクが注目するのはやっぱりそういう部分になってしまう)。

そうした炭鉱町のデタラメで楽しいバレエ教室とロイヤルバレエスクールの「ザマス」の世界の対比もこの舞台の見どころである。日本語版『ビリー・エリオット』は英語版の原作では区別されていたであろう労働者階級の発音と中産階級の発音をわかりやすく表すために前者は西の方の方言をごちゃまぜにした仁王雅治みたいな喋り方に、後者はザマス喋りに翻訳されている。

なので『ビリー・エリオット』では乱暴な仁王みたいな喋り方をする中河内さんを堪能できます。

 

……そうだった、長々と舞台の感想を書いてしまったが本題は中河内さんの話だった。

結論から言うと、中河内さんはほとんど踊らなかった。中河内さんと言えばダンス、ダンスと言えば中河内さんなのに中河内さんがミュージカルに出演して踊らないことあるんだ!?って思ったけど踊らなかった。

 

中河内トニーが最初に目立った形で登場したのは一家のリビングルームでのシーン。

ズボンを履かずパンツ姿で家の中をうろうろする推しは早くズボンを履けと怒られていた。人生で初めて生で見る推しに興奮を隠せないが決して服装のせいではない。ズボンを履かずパンツ姿で家の中をうろうろする推し、それを双眼鏡でストーカーする私。完全に変質者vs変質者の戦いだった。

まだまだ序盤のこのあたりではいつ中河内さんのソロダンスが来るのかな♫とワクワクしていた。

物語は進み、推しは赤いビキニを着たセクシーお姉さんの体がプリントされた怪しいエプロン姿でまた家の中をうろうろしていた。猥褻なエプロン姿でうろつく推し、それを双眼鏡でストーカーする私。私はこのあたりで、さすがに中河内さん踊らなさすぎじゃないか…?とソワソワしていた。もちろん中河内さんのお芝居も好きなので、労働環境の改善を求めて必死に声を張り上げ、時には父親や弟とも衝突するちょっとガラ悪めなトニーにしっかりラブとトキメキを感じていた。父親と言い争うシーンではビブラートとビブラートがぶつかり合い、詐欺師の中河内さんしか知らなかった私は真っ直ぐな歌声の中河内さんも好きだ、中河内さんなんの役でも好き、声が良い、声が感情の塊…ありがとう…という感情になった。

そうこうしているうちに物語はラストっぽい雰囲気に突入し、もうこれは中河内さん踊らないかもしれない、そういう役だったんだ、生の中河内さんを見れただけで十分幸せだから諦めよう…という感情になった。

と思っていたらカーテンコールでついに中河内さんが踊った。作業着の上からバレエのチュチュを着て。

踊ったと言ってもみんなで大団円るんるん♫くらいのダンスで、私が期待していたような役としての感情を身体の動きに込めた激しいダンスではなかった。しかしチュチュを着て踊る35歳男性の推しは全身から溢れんばかりのハッピーオーラを放っており、非常に愛らしかった。

当然双眼鏡でストーカーした。私はせっかく生の舞台を観るなら全体の雰囲気を楽しみたい派なので、基本的に推しの登場シーン以外は双眼鏡を使わない。思えば今日私が双眼鏡で覗いたものは推しの下着姿と推しの猥褻なエプロンと推しの女装だった。

感動の推しとの初対面が「双眼鏡越しに覗くパンツ」だったオタクが私以外に存在するのだろうか。

 

私は踊っている中河内さんを観るまで諦めるつもりはない。これからも中河内さんの出演情報をチェックし続けよう。中河内さんの本気のダンスを見た時が本当の中河内さんとの初対面だと思うことにするので。

 

と思いながらTwitterで人の感想を見てたら、労働運動のドタバタとバレエレッスンが同時進行してるシーンの労働者達の中に中河内さん演じるトニーが混ざって踊っていたらしかった。

私の双眼鏡は推しのパンツを拡大するためにあったんじゃない、アンサンブルの中に混ざる推しを見つけるためにあったんだ。

 

確かに… 確かに中河内さんのイリュージョンを生で見るのは私の悲願だったけど…

それは見つけられんぜよ…