激ダサDANCEで凍らせて

ハロプロとテニミュとその他雑記。

テニミュ3rd関立に見る赤也の内面

テニミュ3rdシーズン ファイナルロードの配信企画、やっぱり地区予選〜関東大会の投票1位は関東立海でした。

私も関立は全国編含めた全公演の中でも1番好きな公演です。曲と試合展開が好きなのは全氷、見応えあるのは全立、みたいに好きな公演はたくさんあるのですが、一本のミュージカルとして一番綺麗に纏まっていると感じるのは関立(特に3rd)です。

特に離れた場所にいる手塚や幸村の幻影が出てきて歌いながら仲間に寄り添うシーンは漫画やアニメではできない表現で、これぞミュージカルだな、と音楽の力を感じることができて好きです。

3rdの関東立海はよくわからない英語を喋るリョーマと対戦する赤也といい、すまんごめんソーリー♫のプラチナペアといい、アホで治安悪い試合がすごく楽しい。

その楽しい空気も幸村が登場するシーンではガラリと変わってシリアスなものとなり、公演中に何度も感情が揺さぶられます。幸村の切実な表情を見ると、真田や柳はもちろん、アホみたいな歌詞を歌ってる立海メンバーもそれぞれ幸村と立海に対する思いや覚悟を背負って試合しているということが伝わってくる。

そういう意味でも関立はスポーツの試合の盛り上がりを見せるというより人間ドラマに振り切った作品としてテニミュの中では異色な作品でもあると思うのですが、関立はただの感動ドラマじゃない。さっきも書いた通り、やっぱりテニミュは肝心なところでしっかり「アホ」を盛り込んでくる。

 

特に笑っちゃうのが、立海の2年生エース切原赤也が歌う《ルビー・アイズ》のサビです。

 

ルビー・イズ・レッド 

レッド・イズ・マイ・カラー

危険信号が見えないか

俺を本気にさせやがって

ルビー・アイズ

 

 

めっちゃ馬鹿じゃん…

初歩的な単語で構成された無駄のないSVC構文…

好きだ…

 

テニミュで演じるのが難しい役って何かなって考えた時に、スポーツ選手の役でありながら品格や高貴さを要求される幸村や跡部、普通の人間っぽいからこそ誤魔化しが効かない大石とかが思い浮かんだけど、やっぱり一番は赤也なんじゃないかなと思います。

赤也の何が難しいって、主人公のライバルキャラであり、獰猛でシリアスな役のはずなのに一歩間違えたらただのおもしろ厨二病キャラになってしまうところです。

 

まず赤也を悪魔にしちゃった許斐先生がすごい。普通、初期から登場して只者じゃないオーラを漂わせてるラスボス校の2年生エースという重要なポジションのキャラクターに「髪型をワカメ呼ばわりされるとキレて悪魔になる」っていう無茶苦茶な設定付けますか?強キャラとしてずっと温めてきたキャラクターにそんな無茶苦茶なギャグを背負わせますか?リョーマを除いた中学生でただ一人一本脚のスプリットステップを使える設定はどうした?

 

ルビー・アイズを作詞した三ツ矢先生もすごい。この曲、曲調はすごくかっこよくて一度聴いたら忘れられないくらいキャッチーで力強いメロディー。そのキレキレの曲に赤也の苦手科目は英語という設定を間接的にぶち込んでくるバランス感覚は誰にも真似できない。

 

そして凶暴で制御不能なキャラクターでありながら本質的には勉強と早起きが苦手なアホという設定を与えられた切原赤也を演じきる前田隆太朗さんの演技はいつ見ても感動します。

前田さん、歌唱力と存在感がすごい。関立の幕が上がって一番最初に観客が惹きつけられるのは、前田さんのソロパートである「俺は試合の流れを支配してお前を敗北に導く 支配の流れを止めるのはいつだって俺の勝利」の箇所なんじゃないかと思います。前田さんの表現力が生み出した好戦的な赤也は、ここで完全に舞台を支配している。

テニミュと言えば空耳をネタにされがちですが、前田さんは文脈上どっちでもありえる「試合」と「支配」を完璧に歌い分けることができるんですよ。そのハキハキとした力強い発声も赤也そのものだと感じます。

 

切原赤也というキャラクターは、見方によってギャグキャラなのかシリアスなキャラなのか全然変わるんですね。たぶん原作をサラッと読んだだけだと赤也はただのおもしろ磔ワカメ天使に見えると思う。

でも赤也のオタクとか立海のオタクって、勝利に執着するあまり自分自身や対戦相手を危険に晒す赤也の姿を悲痛な気持ちで見てしまう。それはOVA立海烈伝、関東立海、全国立海と物語の時が進むにつれてどんどん赤也の純粋な負けん気が暴力性へと変わっていくからです。Twitterやpixivを見ていると、赤也のオタクは新テニの天使化というギャグは無かったことにして、命を削りながらテニスをし続ける赤也の姿に夢を見ている人が多い印象もあります。私もどちらかと言うとそのタイプ。

だから前田さんの関東立海から全国立海への変わり身、ルビー・アイズの偏差値の低さから赤いデビルの治安の悪さへの変化は赤也のオタクを絶望させてしまう。

 

全国立海公演では、立海の選手の心象風景はあまり描かれません。観客は青学と立海の試合の行方を外から見守り、どちらかと言うと同じくギャラリーである四天宝寺の選手やライバルズと共に青学に肩入れしながら絶対王者立海を見上げる、という見方が多いと思います。

それに対して関東立海公演では青学と立海双方の回想シーンと心象風景シーンが繰り返し演じられます。この公演で強調されるのは、幼少期に思いを馳せる乾や九州にいる手塚の思いを胸に試合に臨む不二やリョーマといった主人公サイドの選手の感情よりもむしろ、敵校である立海が幸村の闘病と不在という試練に立ち向かうという物語です。

観客は三強に立ち向かう赤也の記憶や幸村に対して勝利の誓いをたてる真田の心情を覗き見ることによって、青学の選手さえも知らない立海の物語に没入することができるのです。

 

だから全国立海D2で人ならざる悪魔と化した赤也を踏まえた上で関東立海を観ると、英語が苦手で負けず嫌いで短慮で未熟な男子中学生という赤也の人間味溢れる部分を表現する意義が見えてくると思います。

 

赤也を演じた前田さんはザテレビジョンのインタビュー(https://thetv.jp/news/detail/194841/)の中で

 

赤目の時の赤也と、デビル化した赤也の違いについて考えて、自分の中ではデビル化ってどこかで冷静なところがあるんだろうなって思うんです。赤目がブチぎれた人間だとしたら、デビル化は冷静で、かつ冷酷。どっちかっていうとサイコパス寄りなのかなって。だからデビル化は一回落ち着いて、さらに内面から狂気を表現できたらいいなと思います。

 

と話していて、やっぱり関東で赤目になった時の赤也のキモって喜怒哀楽のある人間という部分なんだと思いました。

 

原作の漫画は試合以外のシーンは極力削ぎ落としながら試合展開の面白さで読者を惹きつけていて、キャラクターの内面的な部分はファンブックの情報などで明かされることが多いのですが、ミュージカルでは赤也の好戦的な性格に隠された無邪気さとか幸村の絶対性の裏にある仲間想いなところに焦点が当てられていて、私が3rd関立が好きな理由はそういう心情描写による部分が大きいです。

 

舞台の上の王子様達は許斐先生が作り上げた原型の上に上島先生の演出や三ツ矢先生の歌詞、キャストさんの解釈など様々なものが重なって、どんどん内面に広がりを増していきます。私の中で赤也はそれが特にわかりやすいキャラクターで、見るたびに赤也が好きになっていく。

前田さん演じる赤也だけでなく、歴代の赤也達もみんな個性的で、どの解釈も正解だと思っています。これから先のテニミュでも赤也の多面性をどんどん重ねて、解釈を広げていってほしい。