激ダサDANCEで凍らせて

ハロプロとテニミュとその他雑記。

川村文乃ちゃんの演出力

2019年12月2日のBEYOOOOONDSの1stライブを最後に、何の現場にも行っていない。

疫病で多くの現場が消滅したとはいえ、ハロプロはメンバーがソロでJ-POPバラードのカバーを歌うコンサートを開催してくれているのだけれど、ハロ曲を披露しないコンサートに行く気は起きなかった。

 

メンバーのパーソナリティをまるごと愛したり、現場に行って応援するという行為自体を楽しんだりするのが世間一般のドルヲタのイメージな気がするけど、私はどちらかと言うとハロプロ楽曲の世界観や、歌唱やダンスといったパフォーマンスそのものが好きなタイプで、推しが歌ってるんだったらなんでもいいと思えるタイプのオタクではない。

 

そういう訳でハロプロ現場から1年近く離れていたのだが、私の推しである川村文乃ちゃんのバースデーイベントの配信と文乃ちゃんが企画した特番が連続で降ってきて、久しぶりに推しを浴びた。

 

文乃ちゃんは、歌もダンスもビジュアルもとにかく尖っていたアンジュルムの中では珍しい正統派のアイドル。女児向けアニメのヒロインみたいに華奢でキラキラしていて、甘い声を持った女の子だった。少し未熟でかわいいイメージの7期、8期メンバーが加入した今ではそこまで異色なわけじゃないけど、文乃ちゃんが6期として加入した当初は特にアンジュルムの戦闘力が高い時期で、きゅるんとした文乃ちゃんの存在はすごく目立っていた。

 

自他共に認めるスキル厨(メンバーの握手対応やブログなどにあらわれる人間性より先にステージ上での歌唱力やダンススキルに魅せられて推してしまう)だった私は加入当初そこまで文乃ちゃんに注目していたわけではなかったのだけど、現場に通って、帰り道にメンバーブログをチェックして、を繰り返しているうちにいつのまにか文乃ちゃんの豊かな感性に惹きつけられていった。

 

文乃ちゃんは特別歌やダンスの技術に優れているわけではない(もちろん文乃ちゃんが下手なわけじゃなく、生歌至上主義体育会系アイドルのハロメンの中にいると目立つ存在ではなかったというだけだ)。でも彼女は楽曲の世界観を演出するのがとにかく上手い。竹内朱莉ちゃんや室田瑞希ちゃんみたいに声量もダンスのキレもある派手な先輩達がパフォーマンスをリードしていたアンジュルムの中で、文乃ちゃんはいつも繊細な感情を表現していた。歌詞の内容に合わせて指先や視線の細かい使い方を工夫したり、少し不安げな声、夢見がちな声で歌ったり、文乃ちゃんがステージに立つのを見るたびにその感受性の豊かさと表現力に魅了された。

 

文乃ちゃんはステージ上での表現力が卓越しているだけじゃなくて、そのステージ上でなにを見せるか、構成を組み立てるところから既に独自の演出力を発揮している。アンジュルム加入から約1年後の2018年夏に開催された名古屋ミッドランドスクエアシネマでのバースデーイベントでは文乃ちゃんらしい可愛い楽曲を連続で披露し、本人が組んだセトリにも個性的な演出が光っていた。

特にセンスが良いなと思ったのがスマイレージの《天真爛漫》とタンポポの《恋をしちゃいました!》。

《天真爛漫》には「映画の間 手とか握りたいけど 汗をかいたりしたら 恥ずかしいじゃない」、《恋をしちゃいました!》には「ラーメンを食べました(食っちゃった) 映画にも行きました(行っちゃった) 緊張で覚えてないよ」と、歌詞には共通して「映画」というワードが含まれていて、文乃ちゃんも実際に「映画」という歌詞と同時に背後のスクリーンを身振りで指し示しながら歌っていた。文乃ちゃんは映画館をライブ会場にするという珍しいイベントを利用して、あたかも推しとおたくが映画館という空間を共有しながらデートを楽しんでいるという幻想を作り上げてしまったのだ。発想が天才か?

 

それから2年後の2020年バースデーイベント。疫病のせいで本来の誕生日からは2ヶ月以上遅れた9月25日、丸の内のお洒落ライブレストランであるCOTTON CLUBで開催された。関西在住の私は現地に行くことが叶わずファンクラブサイトの配信で画面越しに見ていたのだが、COTTON CLUBには数年前に岡井千聖ちゃんのソロライブを聴くために行ったことがあるのでそこがお洒落空間であるということは知っている。

 

文乃ちゃんが選曲したのは、Juice=Juiceの《素直に甘えて》やモーニング娘。の《シルバーの腕時計》のような2年前とは打って変わってしっとりした大人っぽい楽曲が中心。川村文乃と言えば甘い声の正統派アイドル、という殻を破ったようなセトリだ。そして文乃ちゃんは今回もCOTTON CLUBという空間を利用してきた。

文乃ちゃんはイベント中のトークで、山手線が通る東京駅に近い会場だからCHIKA#TETSUの《高輪ゲートウェイ駅ができる頃には》を選曲したと話していたのだが、私はカントリー・ガールズの《待てないアフターファイブ》を選ぶセンスにも感動した。以下、歌詞の一部を引用。

 

恋は待てない
ひとり アフターファイブ
あふれるばかり 靴・服・欲しいもの
安心だけ品切れ
あなたが持ってきて どっさりと

なんも食べてない
ひとり アフターファイブ
「愛してる」ではお腹は満たされない
電話も出てやんない
いまどこなのかって?
いつもの、そこらの、どっか

 

 

会場がある東京駅・丸の内って、いわゆる丸の内OLがブランド品を纏った綺麗な身なりで働いている洗練された街というイメージがあって、アイドルとして更なる成功を目指すため高知から上京してきた文乃ちゃんにとっても憧れの街なんじゃないかと思う。

私も地方の出身だから、岡井千聖ちゃんのライブで初めて丸の内に足を踏み入れた時には、東京駅の「よくテレビで見る有名な茶色い側の出口」を見て、ああ、ここがあのお洒落な街丸の内なんだ、って感動したのを覚えている。

 

《待てないアフターファイブ》に「丸の内」なんてワードは一言も出てこない。でもこの曲は文乃ちゃんの演出力と繊細な表現力によって、キャリアも靴も服も手に入れながらも満たされない思いを抱えた丸の内OLがどこかに存在している、そんな街の匂いを感じさせる曲になってしまう。しかもこのバースデーイベントは金曜日の17時開演。そこまで文乃ちゃんが計算していたって考えるのはおたくの妄想になってしまうけど、これ程までの演出力を持つアイドルが他にいるだろうか。

 

コロナ時代でなかなか実際の現場に行けない状況で、文乃ちゃんはCOTTON CLUBという空間を味方につけている。イベント後の文乃ちゃんのブログでも最初の3曲(《明晩、ギャラクシー劇場で》、《素直に甘えて》、《待てないアフターファイブ》)はCOTTON CLUBの雰囲気にも合うショーっぽさを目指したと書いていた。

 

文乃ちゃんの感性は、選曲にも歌唱にもダンスにも、あらゆるところにキラキラ輝いている。

2ヶ月遅れだけど、お誕生日おめでとう。

いつまでもキラキラしちゅう文乃ちゃんでいてください。